最近の読売新聞連載についての筆者の引用メモ

 書物はいつの時代でも知の結晶とされた。、出来るだけ多くの書物を一同に集めたいという欲求は、人類の文明ほど古い。古代エジプトのファラオたちは、知を究めることが、世界を支配するとの考えにとりつかれたように、アレクサンドリア図書館での収集にまい進した。プトレマイオス3世は写本家を多数集め、旅人の書物を一時押収して写本させ、収集を増やした。
 「グーグルブック検索」は、その野心からアレクサンドリア図書館の現代版と言える。オンラインでの書籍の内容(著作権切れの図書なら全文無料)を見ることが出来る。東京大学大学院情報学環長の吉見俊哉教授(50)は、「グーテンベルグの活版印刷術以来」の革命と言う。

 (中略)

 吉見教授は、「検索で得られる情報は、知ではない」と話す。「知は、構造化され、体系性を持つ」が、ネット検索は細切れの回答しか与えないからだ。吉見教授は、「我々は図書館に難度も通い、横並びの図書(情報)から、知識の”地図”を頭の中に描いて理解を深めてきた。それが学問につながった。検索技術の進歩で、”森”の地図が描けなくなっても、”リンゴ”を入手できるようになった」とも言う。
 実存主義哲学の大家、フューバート・ドレフュス・米カリフォルニア大バークレー校教授は、著書「インターネットについて」の中で「コンピューターは人間の教師に代わることは出来ない」とし、「知」は本質的に人の交流から生じるものだと主張する。
 電子図書館時代は必ずやって来る。その時には、図書館に足を運ばなくても、世界の中の知を見ることができる。だが、ネットに依存する中で、人と人の思考の交換、そこから得られる知的刺激や興奮が失われるならば、人類の知力の核である想像力が犠牲になる。

出展:読売新聞 2008年1月6日 第1面 日本の知力 第1部最前線で考える4(強調筆者)

 平和というのは全ての敵意が終わった状態をさしている」。哲学者カントが不戦の理念を説いた『永遠平和のために』(綜合社刊)の新訳本だ。
 (中略)
 この本を読んだ高知県高知追手前高1年の久武正樹さん(16)は、「永遠平和は空虚な理念ではなく、われわれに課された使命である」という一文にひかれた。「200年以上も前に平和を実現する道筋をここまで深く考え抜いた人がいたことに驚いた」。時代を超えたカントの洞察と提言は、現代の高校生にも新鮮に映る。
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 カントに代表される哲学の知は近代日本の知識人にとって必要不可欠な教養だった。インターネットが発達した今日、実利に直結しない古典的な教義は膨大な情報に紛れ、その姿はみえにくくなっている。
 『移りゆく「教養」』(NTT出版刊)の著者で東京大学教授の苅部直さん(42)は価値観が多様化した現代では1つの問題に複数の視点から眺め、じっくり考えることが重要と語る。「それには普遍的な価値を持つ古典の熟読が有効です」
 他者の視点を自らの内に取り込む別の方法もある。
 (中略)
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 古代ギリシャでは市民がアゴラ(広場)に集まり、議論を重ねることで共同体を運営した。そんな対話の場となっているのが、関西を中心に2000年から活動している「哲学カフェ」だ。
 (中略)
 市民に「対話する哲学」を提供する試みは、少しずつ輪を広げている。21世紀のあるべき教養の姿は、いにしえの「知力」にてがかりがあるかもしれない。

出展:読売新聞 2008年1月7日 第1面 日本の知力 第1部最前線で考える5(強調筆者)

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