楽園追放 -Expelled from Paradise-を5回鑑賞して、

 映画鑑賞に対する基本的な姿勢

バトー「そうだ、今度二人で映画でも見に行かねえか?」
草薙「有難う。でも本当に見たい映画は一人で見に行く事にしてるから。」
バトー「じゃあ、それ程見たくない映画は?」
草薙「見ないわ。」
バトー「ふっ、成る程。」
*1

 楽園追放鑑賞前の事前知識
 サイエンスフィクションなのかすら認識していないほどの知識不足で、監督原作の劇場用作品であること以外何も知らなかった。知ろうともしなかった。


 鑑賞履歴
 公開日:(参考)
 1回目:11月25日
 2回目:11月26日
 3回目:11月27日
 (3日連続劇場鑑賞は、感動大作魔法少女リリカルなのはTHEMOVIE 2nd A'sでも行われなかった。)
 4回目:11月30日
 5回目:12月 2日
 
 iTunesレンタル:12月2日


 物語展開的批判
 予想以上に筆者向けのストーリーであった。現在までにオンラインに物語の展開をを積極的に公開する媒体は少なく、情報は少ない。物語のあらすじについては、紹介せずに本稿を述べる。物語の作り方は起承転結が基本である。主人公アンジェラ・バルザック3等官が物語の始まりに接触し、リアルワールドへの介入、「楽園追放」、結末という展開が104分の中で行われる。この押井守監督は100分以下の映画こそ理想と述べているが、押井監督の作品は100分以下でもこの楽園追放よりハードなSFが展開され、物語の理解は困難を極める場合が多い。対して、楽園追放は鑑賞者を置いてけぼりにするようなシーンは皆無であり、全く何も知らない人でもすんなりとみることができる。映画構成としては、万人向けだと確信する。初心者やSF愛好者にとって、拒絶感無く受け入れられるはずだ。*2
 
 物語設定的批判*3
  電脳空間ディーヴァの設定は、攻殻機動隊STANDALONECOMPLEX 2nd GIGでクゼくんが提唱していたGhostのネット内に移行させる思想を実現化したものであると考える。ディーヴァでは、攻殻機動隊では不可能だった魂と呼べる存在Ghostを完全にデジタルデータで運用し、またそのコピーや移動ができる世界である。劇中で肉体を捨て、進化した人類として語られており、まさにその通りである。電脳空間ディーヴァにおける活躍は冒頭と終盤の2回しか登場せず、本作がSF作品でありながら、マテリアルボディ(肉体)によるリアルワールド(地球)での描写が多い。電脳空間ディーヴァが、警察国家として描かれており、主人公アンジェラ・バルザック3等官が所属するディーヴァ保安局は、電脳パーソナリティと呼称される肉体を捨てた人類の生殺与奪をし、リアルワールドで生きる協力者(相棒)ディンゴは、自由のない世界だと批判する。
 攻殻機動隊SAC2ndGIGでは理想郷として描かれた電脳空間での生存であったが、本作楽園追放では、電脳パーソナリティが動作するリソース(資源)の制約から、これも理想郷ではないと否定する。パソコンの中であっても、データの処理には、パソコンのスペックがその性能を左右すると同じく、電脳パーソナリティとなった人類のデータが、自由に活動する無限のリソースが現実的な課題となり、理想世界は実現されない。Ghostの完全データ化された世界に人類のほとんどが生活する設定は、これまで聞いたことがなかった。あっても、例外的な人間や自我を持ったAIがデジタル空間を生存するだけであった。攻殻機動隊の世界観でも、魂(Ghost)の完全デジタル化は実現しておらず、電脳空間ディーヴァのSF的設定は最も人類がコンピュータ化された設定であろう。*4
 残念ながら、本作では電脳空間ディーヴァにおけるアンチテーゼとしてのリアルワールドが対比的に扱われ、ディーヴァの優位性が直接的に描かれることはない。電脳空間ディーヴァの無限の可能性について、今後描かれることがあるのであれば、大いに期待したい。*5
 
 映像表現的批判
 1点だけ批判したい。冒頭部アンジェラ・バルザック3等官が、電脳世界ディーヴァに不正アクセスしたフロンティアセッターの追跡*6コマンドを実行する際の映像表現が、ダサい。後半低軌道プラットフォームから地球降下のシーンは、筆者の思う最高のシーンであり、宇宙戦闘、地球重力による湾曲運動、降下落下傘の美しさ*7は完璧である。これに匹敵する表現で冒頭部の追跡劇を描いてほしかった。手を伸ばすのはないだろ・・・。手は・・・。なんか捕獲用ミサイルを撃つ的な描写とかやりようは無かったのだろうか。3回目ぐらいの鑑賞からなれてきたが、1回目はこれは詰まらない作品かとほとんど断定する事態になった。
 作画レベルは劇場用作品としての水準を満たしている。ディンゴが敵アーハン*8を倒すシーンやその後の爆炎の書き込みはすばらしい。アンジェラ・バルザック3等官の表情も、うどんのシーンなど良し、保安局上層部を偶像にしたのもおもしろい。

 音楽的批判
 [asin:B00OOSZOFU:detail]
 大変すばらしい。ただ、ディンゴや劇中設定のアレンジ版も聞きたい。ブルーレイ特典のSoundTrackに付属していることを期待する。


 感動的批判
 物語の起承転結は、王道といえる流れで行われる。後味の悪いエンディングや結局どうにもならなかったというような結末ではなく、未来を感じさせる。
 「仁義」、宇宙への夢には、大いに感動し、後半15分は泣いた。

 
 軍事兵器的批判
 そもそも、ディーヴァに依存したシステムが基本であり、スタンドアローンで活動できる兵器が一切存在しないと考えられる。ディーヴァの仮想的はリアルワールドと想定されるが、それにしては強力すぎる戦力である。だが、その戦力が有効に活用されたシーンが一つある。SANDWARMというモンスター?との戦いである。となると、仮想的はこのようなリアルワールドのモンスターと考えるのが妥当である。実際に効果的に成果を発揮できた。そのことから、ディーヴァの戦力は、電磁的妨害すなわちディーヴァ中央コンピュータのリンクである衛星通信を妨害される危険性が全く無いという環境にあることがわかる。だが、これはかなり危険である。リアルワールドの戦力はほとんど無視できるものであるが、今回のフロンティアセッターのような電脳戦闘が得意な敵が発生した場合、自閉モードやオフラインモードで活動できないというのは致命的である。アーハン同士の戦闘シーンでは火薬兵器によるものが描かれていたが、常時オンラインで戦闘補佐を中央コンピュータから受けている兵器はハッキングによる全滅の可能性もあったはずだ。HLV最終打ち上げ段階でだれも攻撃をしていなかったので、その際はフロンティアセッターによるハッキングが行われていたのではと考える。
 また、自前の兵器に対する防御手段が存在してない点もディーヴァの硬直であろう。アーハンがミサイルで撃墜される描写はかなり描かれており、熱誘導型ミサイルに対する防御策が装備されていないと想定できる。アーハンは何らかの燃料を噴射して推進しており、映像でもはっきりとわかる化学反応が噴出部に見られる。ステルス性も考慮されていない。このような理由となっているののは、生物であるSANDWARMのようなモンスターが仮想的として設定されているからと確信する。
 このようなディーヴァの硬直的運用思想は次の理由で危険である。すでに述べたハッキングに対する脆弱性、自軍兵器による反乱の制圧、リアルワールドの技術進歩、未知の敵。自軍兵器に対する防御装備がないと、劇中のように自軍兵器に対抗策を打てずに負けてしまう。劇中の場合、数の差が顕著であり、ディーヴァが有利であったが、同数となった場合脅威度は大幅にアップするだろう。あとの2つの理由についても、将来的な危険がある。そもそも人型兵器の運用に疑問がある。ガンダムにおける人型兵器の運用は、ミノフスキー粒子というレーダー干渉物質が存在するから成り立っており、レーダーや電子兵器が完璧に機能する条件下では、ゲリラ戦や非正規戦以外の作戦では勝機はない。
 このような結果になったのは、ディーヴァという理想郷を作り上げてしまったことにより、より進化することを、淘汰される機会を失ってしまったからではないだろうか。
 最後に、保安局員はリアルワールドでの小火器は配備されていないのだろうか。素手で制圧できる場面は、荒れ果てたリアルワールドでは限定的と思うのだが?。銃の1丁ぐらいは装備させても良いのでは。

 
 映画とは。

9課鑑識A「あ、少佐、奇遇ですね。こいつは素晴らしいですよ・・・」
草薙「おい!ここを出るぞ!おい!」

神無月「どうだった?」
草薙「確かにいい映画とも言えないくもないわね。でもどんな娯楽も基本的には一過性の物だし、またそうあるべきだわ。始まりも終わりもなく只観客を魅了したまま手放そうとしない映画なんて、それがどんなに素晴らしく思えたとしても害にしかならない。」
神無月「ほお、手厳しいのう。我々観客には戻るべき現実があるとでも言いたいのかね?」
草薙「そうよ。」*9

 最後に
 本稿の書き終わりと同時にiTune版レンタルを見終えたが、音の迫力が全く違う。劇場で見られる環境にある人は、劇場で感動を味わうべきだ。
 

*1:http://ajatt.com/gits/02_gs/03_sac/12_escape_from.html

*2:押井守監督の映画構成が悪い訳ではなく、ダレ場と呼ばれる音楽と映像による特有のシーンには、筆者としては、狂信的な酔狂がある。

*3:映画で語られる内容からのみ推察した。文庫版等で語られている内容は吸収していない。

*4:映画TRONなどで電脳空間デジタルデータ上に精神や感情が生存する状況は描かれたことはあるが、人類の98%が電脳空間で生存する設定ではない。

*5:文庫版等で期待する。

*6:トレースルート、TraceRute

*7:空気の成分に触れると分解される合成樹脂とか、マイクロマシンで出来てる??

*8:強化外骨格、ロボット

*9:http://ajatt.com/gits/02_gs/03_sac/12_escape_from.html

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